DXは必要だと認識しながらも、なかなか人材を確保できない企業も多いのではないでしょうか。ここでは、DX人材とはなにか、役割やスキルについて解説します。人材確保の方法や育成ポイントも載っているため、ぜひ最後まで読んでみてください。
DX人材とは
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、テクノロジーを活用することにより、ビジネス環境の変化に対応していく意味を持っています。DX人材とは、企業の中心となって、DXを進めるスキルや適正を備えた者です。
まだ新しい言葉であるDX人材に、明確な定義はありませんが、ただデジタル技術に詳しい人材というだけでは不十分といえるでしょう。実際に企業のDXを進めていくには、さまざまな役割を担った人物が、企業とプロジェクトとをまとめ上げ、連携して進めなければいけません。
経済産業省によるDX推進人材の定義
未だ明確な定義はないDX人材ですが、経済産業省が2018年に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DXガイドライン)」では、以下のようにDX実現に向けた人材確保について触れています。
- DX推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材を育成・確保すること
- 各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードする人材、その実行を担っていく人材の育成・確保すること
人材の確保とは、社外からの人材の獲得や連携も含みますが、経済産業省の概念によれば、DX人材とはデジタル技術やデータ活用に精通している人材と、DXの取り組みをリードして実行する人材の2つの区分があると考えられています。
参考:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0
DX推進人材の6つの役割
上記のような概念ではなく、DX推進人材を実際に企業の役割として当てはめていくと、以下の6つに分けられます。
- プロデューサー
- ビジネスデザイナー
- アーキテクト
- データサイエンティスト/AIエンジニア
- UXデザイナー
それぞれの役割について、順番に見ていきましょう。
参考:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査(情報処理推進機構)
1.プロデューサー
プロデューサーは、DXやデジタルビジネスの実現に向けて、リードしていく役割を持っています。DXを先導していく立場であるプロデューサーは、常にデジタル技術のトレンドを捉えるだけでなく、自社を取り巻く環境や、自社の現状に合った行うべき戦略を理解し、実行への道筋を描く必要があるでしょう。
非常に重要かつ責任の重い役割のため、経営陣がプロデューサーを担う場合も少なくありません。今から紹介する役割のすべてに言えることですが、デジタルとビジネス両方の知見が必要です。
2.ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーは、「DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材」として定義されています。具体的にはプロデューサーと連携し、アイデアを企画レベルまで落とし込む立場です。
ビジネスデザイナーには、プロデューサーから漠然と出たアイデアを受けて形にし、企画を関係者に披露し、納得してもらうための説明力も必要です。プロジェクトの管理役も担い、プロデューサーの次に頼られる役割であるため、トレンドや自社の環境、戦略の理解もしておかなければなりません。
3.アーキテクト
IPA調査において、アーキテクトは「DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材」として定義されています。具体的にはビジネスに、どのようなデジタル技術を導入すればDXを実現させられるのかといった、システムを設計する立場です。
アーキテクトは実際に構築までは行いませんが、課題の分析や要件定義、設計・開発サポートを行う必要があるため、デジタル技術に精通している人材であることが前提です。また、経営視点も求められます。
4.データサイエンティスト/AIエンジニア
データサイエンティストとは、人間では全体を把握することが困難である巨大なデータ群、ビッグデータの中から、ビジネスに活かすためのインサイトを導き出す職業です。インサイトとは有意義な洞察を意味します。データサイエンティストは膨大で複雑なビッグデータを取捨選択し、有益な情報として加工または分析を行います。
データサイエンティストも他の役職と同様、ただ分析力が高いだけではいけません。スキルや専門知識はもちろんですが、DXは周りと協力してプロジェクトを進めていく必要があるため、ビジネスへの理解も必要です。
5.UXデザイナー
UXデザイナーとは、DXやデジタルビジネスで実際に使われるシステムや、サービスのユーザー向けインターフェースをデザインする役割を担っています。インターフェースは操作画面などを指しますが、ただ見た目が良いだけはなく、使い心地も重要です。
UXデザインを洗練することで、自社や自社商品・サービスに対してユーザーが良いイメージを持ってくれれば、競合との差別化要素になります。デザイン面だけでなく、ユーザーにどのような体験を提供できるかを考え、動ける人物が向いているといえるでしょう。
6.エンジニア/プログラマ
エンジニア/プログラマはアーキテクトが行なった設計を元に、実際にシステムを実装したり、インフラの構築を行う役割を持っています。DXの現場で求められるエンジニア人材になるには、従来のプログラミング言語の知識だけでなく、AIやIoTなどの知識の習得も必要です。
エンジニアは過去の知識や経験にとらわれず、クライアントは何を優先して依頼しているのかを考え、アーキテクトと相談し実践しなければなりません。アーキテクトと同じく、経営視点も必要になる重要な役割です。
DX人材に求められる7つのスキル
DX人材に求められるスキルは、以下の7つです。
- ビジネス戦略策定・構築能力
- プロジェクトマネジメントスキル
- ファシリテーションスキル
- IT技術の基礎知識や最新情報への理解
- データサイエンスの知見
- AIなど最先端技術への理解
- UI/UXの知見
順番に見ていきましょう。
1.ビジネス戦略策定・構築能力
デジタルの変革により、ビジネス環境は日々進化しているため、競合に勝つために、ビジネス戦略策定と、構築能力が重要です。しかし現状行われているDXの取り組みの中には、先行企業の事例を真似したものや、ただの改善活動となっているだけの企業も少なくありません。
たとえ同じ業界として括られる企業同士であっても、当然ながら考え方ややり方は異なります。先行企業の事例を参考にしながらも独自のビジネス戦略を策定し、構築できるスキルが必要です。
2.プロジェクトマネジメントスキル
DX人材に求められるスキルとして、プロジェクトマネジメントスキルも重要です。DXは、新しいITツールを導入すれば終わりという単純なものではありません。これまで積み重ねてきた社内体制や社内文化に変革を起こす可能性のある、重要なものだと考えてください。
さらに言うと、DXは変革を起こして終わりではなく、PDCAサイクルを繰り返し、企業が望むあり方へと何度も挑戦を繰り返す必要があります。戦略策定や問題分析、解決能力から予算管理、スケジュール管理など、自分やDXチームの業務内容に関し、マネジメントできる能力が必要です。
3.ファシリテーションスキル
会議やプロジェクトなどを円滑に進めていく能力を表す、ファシリテーションスキルもDX人材に必要です。たとえばファシリテーションスキルの低い人材に会議を任せてしまうと、会議前の根回しを十分に行えず、会議に参加したものは不完全燃焼となるでしょう。
不完全燃焼の気持ちを抱いたままプロジェクトが始まると、小さな不満や疑問が起こった際に、DXは本当に必要なのかどうかなど、後ろ向きの疑念を抱く者も現れます。
会議の進行管理はもちろん、DXを行なった先の具体的なイメージを共有し、浸透させておくなど、プロジェクトを円滑に進めていくために、ファシリテーションスキルを持った人材を育てるようにしていきましょう。
4.IT技術の基礎知識や最新情報への理解
DXに関わる人材であれば当然と言えますが、IT技術の基礎知識や、最新情報への理解も必要なスキルです。特に直接的にIT技術を利用することのないビジネスプロデューサーやデザイナーの立場の人間は知識の習得や理解を怠りがちですが、IT技術の基礎知識は、チームの共通言語ともなり得ます。
DXの方向性や、これからの未来を予測していく上で、最新情報への理解も必要です。個人的に情報をキャッチするだけでなく、勉強会などを定期的に開き、チームと情報交換をして、常に知識をアップデートしていきましょう。
5.データサイエンスの知見
DX人材には、データサイエンスの知見も重要です。データサイエンスとは前述したとおり、人間が把握できないビッグデータの中から、自社にとって有益な情報を引き出し、分析・活用することを指します。
ビッグデータや機械学習を活用したデータ分析は日々進化しており、精度も増している背景から、ビジネスにおける重要度はこれからも高まっていくでしょう。ビッグデータからの情報の抜き出しや分析をうまく活用していかなければ、競合との差が生まれてしまう可能性もあるため、データマネジメントスキルの高い人材を選び、チームに配置したいところです。
6.AIなど最先端技術への理解
AIやブロックチェーンなどの最先端技術は日々進化しており、これまで最先端だったものがすぐに新しい技術へと置き換えられています。DX化を進めていく中で競合との差別化を図るには、常に最先端技術の情報をキャッチアップし、理解して取り入れていくことが必要です。
DXは、一つのプロジェクトが完了してもPDCAを繰り返し、より良い結果となるように考えていかなければなりません。最先端技術の情報を常にキャッチアップできていれば、課題を解決する施策の選択肢も増えるため、トレンドから目を背けず、向き合っていきましょう。
7.UI/UXの知見
UI/UXへの知見も、DXに関わる人材に必要なスキルです。洗練されたデザインはは最初こそユーザーの気を惹きますが、利用した際の操作性が良くなければ、ユーザーはすぐに利用を止め、離れていってしまうでしょう。
DX人材は、常にユーザーのニーズを理解した上で、操作性の高いUIやUXを提供することが大切です。デザイナーだけが身につける知識ではなく、エンジニアやアーキテクト、プロジェクトリーダーを務めるプロデューサーや、ビジネスデザイナーにも、持っておいてほしいスキルといえるでしょう。
DX人材を確保する方法
さまざまな役割やスキルを解説しましたが、実際にDX人材を確保する方法としては、以下の2つが挙げられます。
- 外部からDX人材を採用する
- 社内でDX人材を育成する
順番に見ていきましょう。
外部からDX人材を採用する
DX人材を確保するために挙げられるのが、外部からDX人材を採用する方法です。一般的な採用活動のほか、優秀なDX人材を競合から引き抜くケースもありますが、DXを推進する企業が増えていることから、近年DX人材の需要は急増しており、なかなか望み通りの人材を獲得できない背景もあります。
DXに向けて即戦力となる人材を確保するためには、以下のポイントを押さえて採用活動に望むことが大切です。
- 自社の課題を洗い出し、DX人材に求める必要なスキルやノウハウを明確にする
- 自社の理念やビジョンをしっかりと示す
まずは、現状の課題を洗い出し、DX人材が持っておいてほしいスキルやノウハウを明確にすることで、採用した後の「こんなはずではなかった」といったズレを防ぎましょう。また自社の理念やビジョン、社内環境や報酬制度などを示すことで、やる気のある人材が集まる可能性が高まります。
競争の激しいDX人材ですが、求めていない人物を採用してしまっては自社にとっても、採用されたDX担当にとっても無意味なものとなっていまいます。外部からのDX人材を採用するために、しっかりと基準を設け、環境を理解してくれている人物を採用することを心がけてください。
社内でDX人材を育成する
外部からDX人材を確保する方法のほか、社内でDX人材を育成する方法もあります。必要なスキルでも前述したとおり、DX人材は、ファシリテーションスキルや最先端技術への理解も必要です。
社内でスキルに長けた人物が存在している可能性もあるため、公募などで見つけ出し、社内で育成してみてはいかがでしょうか。社内からの人材は、自社のビジネスについての理解を既に持ち合わせているため、DXを推進する上で、重要な戦力となる場合があります。
もちろん全て外部から人材を採用する企業もありますが、まずは社内でスキルを身につけている者、身につけたいと感じている者を見つけ出し、座学やOJTなどで知識をつけてもらうことをおすすめします。システムの開発などは外部の人材に任せたとしても、社内の人間が設計に関わることにより、よりユーザー目線に立った使いやすいシステムの構築ができるでしょう。
DX人材を育成する際のポイント
DX人材を育成する際のポイントは、以下の3つです。
- ミニマムスタートで小さな成功体験を積ませる
- アジャイル開発を採用する
- 失敗が許される体制を構築する
順番に見ていきましょう。
ミニマムスタートで小さな成功体験を積ませる
DX人材を育成していくには、小さな成功体験を積ませ、自信を積み重ねていくことが大切です。DXは早急に推進していかなければならない課題であると認識し、プロジェクトの完成までを急かす上層部も少なくありませんが、まずは座学などで必要なスキルを学んだ後に実務を行わせてみて、成長を実感してもらいましょう。
自信が付けば前向きな気持ちになり、プロジェクトへのやる気もこれまで以上に湧いてくるはずです。のびのびと成長していき、重要なプロジェクトも自信を持って推進できる環境づくりをしてみてください。
アジャイル開発を採用する
自信を持って作業を行える人材となってもらうためには、結果がすぐに分かるアジャイル開発の採用も大切です。アジャイルとは素早いという意味を持ち、スピーディなシステム開発を進めていくことを指しています。
従来はリリースまでに時間のかかるウォーターフォール開発を採用している企業も多くありましたが、仕様を決めてから細かく実装とテストを繰り返していくアジャイル開発は、素早いリリースが可能です。DX人材は、自らが携わったプロジェクトの成功体験を積めるほか、リリースしたシステムの仕様変更や機能改善が素早く行える点もメリットと言えるでしょう。
失敗が許される体制を構築する
DXは最終的には、経営の改革や革新を行うことが目的であるため、成功までには時間を要するだけでなく、その中で期待するような結果とならない場合も少なくありません。たとえ失敗したとしても、責めたり責任を取らせるなどは考えず、許される体制を構築しましょう。
もしも周りから失敗を責められれば、担当者は萎縮してしまい、自分の意見を出せなくなったり、上層部の意見を聞いてそのまま作業するだけの者になってしまったりします。失敗が許される体制を構築すれば、現状を打破するような思い切ったアイディアが出て、DX実現に向けて大きな一歩を踏み出せる可能性があることを覚えておいてください。
まとめ
DXは単にITシステムの導入を行って終わりではなく、企業のビジネスモデルや変革に大きな影響を与えるものです。現在DXに取り組む企業は多いですが、DXに必要な役割やスキルを理解しておくことは大切でしょう。
DX人材の確保の方法には外部から採用する方法と、社内で公募し、スキルを持ったものを見つけ出す方法があります。今回紹介したスキルや育成ポイントを参考に、これから重要な役割を担うDX人材を確保していきましょう。