昨今のビジネスシーンにおいて、「AI」の役割は非常に大きな存在感を示しています。
世界的な動向を見ても、AIに対する投資は旺盛で、総務省情報通信政策研究所がとりまとめた「AI経済検討会報告書2021」によれば、2020年のAI関連の投資は679億米ドルにのぼり、前年比40%増となりました。特に民間投資が全体の60%を占め、M&Aも倍増しています。
一方で、AIが苦手とすることも今では広く知れ渡っています。その代表格といえるのが『0から1を生み出す創造性』を必要とする仕事でしょう。しかし、昨今ではこの苦手の「克服」を思わせる新たなジャンルのAIが登場しています。
従来のビジネスシーンにおけるAIの役割
2022年現在、AIはさまざまな製品やサービスで活用されています。
その活用の幅は日に日に広がっており、需要予測などの「経営支援」、OCR(手書きの文字をテキストデータに変換する)や見積もりの自動化といった「生産性向上」、エアコンの温度管理やスマートフォンの音声操作といった「生活利便性向上」に至るまで、その活用範囲は多岐にわたります。
こうしたAIは、「特化型AI」というカテゴリーに分類されます。
限定された領域において、それに関連するデータを読み込ませ、学習したデータに基づいて新しい事象に何らかの答えを導き出します。
例えば、OCRにおける識字率(手書き文字を正しくテキスト変換できる確率)などは、さまざまな手書き文字を読み込ませることで精度があがっていきます。
現在のビジネスシーンにおいて活用が進んでいるのは、この「特化型AI」です。
一方、これに対する概念に「汎用型AI」というものがあります。
これは、あらゆる状況において柔軟に答えをだせる、ほとんど人間のようなAIです。
残念ながら、こちらはアニメや映画のモチーフとして扱われてはいるものの、現在の技術では実現可能性すらわかっていません。
つまり、2022年現在におけるAIとは「特化型AI」を指しています。
ジェネレーティブAI
これから紹介する『ジェネレーティブAI』は、特化型AI の新たな可能性を開くものといえるでしょう。従来のAIとの違いやその特徴について、詳しく解説していきます。
ジェネレーティブAIとは
従来のAIは「見分ける力」と「特徴を見出す力」の大きく2つの能力を持っていました。
<見分ける力>
学習済みのデータと照合し、それが何であるかを見分けます。
例えば、犬と猫の画像を大量に読み込ませることによって、犬と猫それぞれの特徴を自ら抽出し、新たな画像を見たときにそれが「犬」であるか「猫」であるかを判別します。
これを「文字」の置き換えたのが、AI OCRであり、「心地の良い温度」に置き換えたのがエアコンに搭載されたAIです。
<特徴を見いだす力>
正解のない無数のデータを読み込み、それらのデータの特徴を抽出して分類します。
例えば、商品の販売データを読み込ませることで、どういう場面でどういう人に、どういうものが売れる傾向があるかを導き出します。
販売データを用いた優良顧客の分類や、気温や天気といった周辺データを加えることで、人間では思いつかない切り口での分類を気づかせてくれることもあります。
しかし、ジェネレーティブAIの機能はこのどちらとも一線を画しています。
なぜならば、この新たなAIは自ら『創造』するからです。
学習したデータを用いて、全く新しいデザインや設計図といった『アウトプット』を生み出す。これが、ジェネレーティブAIの特徴です。
ジェネレーティブAIにできること
(AI Multiple A Complete Guide to Generative AI in 2022 より引用)
これは、ジェネレーティブAIにラフスケッチをインプットし、リアルな画像を出力させたものです。
AIはこのラフスケッチから、それが鞄であると判断します。
そして、学習済みの鞄のデータとインプットされたラフスケッチを重ねあわせ、新たな鞄の画像としてアウトプットしているのです。
もう1つ、有名なプロジェクトに「Which Face is Real?(どちらの顔が本物?)」というものがあります。この写真の、片方は実際に存在する人物の顔、もう片方はAIが生み出した架空の顔です。どちらが本物の顔か、お分かりでしょうか。
(Which Face is Real? より引用)
正解は左が本物です。
よく見ると、右の写真は髪の毛が不自然であることがわかります。
しかし、ここまで見分けがつかないレベルの「顔」を生み出すことができるのです。
このように、ジェネレーティブAIは学習済みの情報を用いて、ニーズ(インプット)にあったアウトプットを生成します。
そして、この仕組みを用いて新たなデザインを生み出すことを、ジェネレーティブデザインといいます。
ジェネレーティブAIの活用事例
ここから2つのジェネレーティブAI活用事例を見ていきます。
集合住宅のレイアウト設計
住宅を建てる際、担当する営業や設計士が作成したプランをもとに実際のレイアウトを決めていきます。
特に、集合住宅の場合は間取りが収益に直結するため、複数のプランを吟味して決めていくのが一般的です。
そして、良いプランが作れるかどうかは営業や設計士のスキルに依存します。
この作業を、ジェネレーティブAIに置き換えることが可能です。
ジェネレーティブAIは、所定の条件を入力することにより、さまざまなプランを大量に生み出すことができます。
オーナーの要望を確認しながらパラメータを変更し、AIがプランを自動生成、人はそれをブラッシュアップするだけでよく、コスト削減が可能です。
AUTODESK社が公開する資料では、ワークスペースを最適化するレイアウトや、最高の眺望を実現する設計の事例を見ることができます。
レーシングカーの部品設計
イギリスのリバプールに本拠を置くBriggs Automotive Company(BAC)社は、わずか570kgのストリートリーガルレーシングカーを製造しています。一般的に1000kgを超えることも少なくないこの分野において、圧倒的な軽量化に成功したと言えるでしょう。
この軽量化を実現しているのもジェネレーティブAIです。
同社は車に使用される約40の部品について、ジェネレーティブデザインと3Dプリントを活用しています。
この方法で作られたホイールは、美しいデザインを保ちながらも約35%の軽量化を実現したといいます。
(Briggs Automotive Company 公式サイトより引用)
いまこそAIでビジネスに変革を
2022年現在、ジェネレーティブAIが生み出すデータは生成されるあらゆるデータの中で1%未満に過ぎませんが、ガートナー社の報告によれば、はこの割合が2025年までに10%に達するとみています。
また、財経新聞に掲載されたPanorama Data Insights社のレポートによると、2019年のジェネレーティブデザインに関する世界市場規模は「1億2840米ドル」であったのに対し、2030年には「9億5400億米ドル」と約7.5倍に膨れ上がると見られています。
属人化、人員不足、コスト高。
今の多くの日本企業が抱えるこうした課題に対し、ジェネレーティブAIはビジネスに革新的な変革をもたらす可能性を秘めています。
こうした新しい技術は、導入すればただちに効果を発揮するものではありません。
これらを収益につなげるためには、自社のビジネス課題とテクノロジーをかけ合わせ、最も効果的な活用方法を、PoCと呼ばれる方法で実証実験する必要があります。
それは、決して簡単なことではありません。
テクノロジーに特化した企業とのコラボレーションなども必要になるでしょう。
しかし、こうしたテクノロジーの活用に挑戦し、業務を1から見直してビジネスの「変革」するDXの実現こそが、これからの時代を勝ち抜いていくために必要ではないでしょうか。